第23回鶴見事件公判の報告 02.07.17
 

 鶴見事件は,7月15日の最終弁論を最後に,一審から数えて14年間の審理をすべて終え,後は10月30日午前10時の判決の言い渡しを待つだけとなりました。

検察側の弁論は,殺害順序や凶器の種類など,これまで論じ尽くされ,検察側の立証が失敗に終わっていることが明らかなことについて,何の根拠も示さずに,ただ単に立証十分であると繰り返すだけで,まったく迫力のないものでした。

それに対して,弁護人は,無罪の結論しかありえないとする確信に満ちた内容の弁論を展開しました。

この日は傍聴席が満員となり,折角傍聴に来られたのに法廷に入れない人が出てしまいました。

そこで,判決の見通しなどについて,改めて,7月22日(月)午後6時から東京都新宿区西早稲田2-3-18-31の日本基督教団の4階会議室で,弁護団から詳しい報告をすることにしました。多くの支援の方々のご参加をお待ちしております。

長い間,熱心に支援をしてくださったことに対して,心からお礼を申し上げます。

なお,弁護人の弁論要旨の結語部分は下記のとおりです。ご一読いただければ幸いです。

2002年7月17日

鶴見事件主任弁護人 大河内秀明


 

第8 結語

結局,弁護人の主張は,原審で弁護人が平成6年に行った冒頭陳述に回帰することになる。

被告人の自白は,犯意の形成などその根幹部分が不合理に変遷し,凶器が間違っているなど客観的証拠とも矛盾し,外出したという証拠のない女性被害者が不在のとき男性被害者を殺害したというなど内容自体も不自然・不合理で信用性に疑問があり,被告人を本件犯行について有罪と認定するにはあまりにも多くの合理的な疑いが残る。捜査機関は,被告人を犯人と決め付けるあまり,女性被害者が外出したという証拠を得ていないにもかかわらず,そしてそれが検察官が構想する証拠構造の根幹であるにもかかわらず,被告人を起訴した。しかし,あらゆる矛盾を無視したまま,科学的に真相を解明しようという努力を怠ったことが,大きな捜査上の欠陥となって,誤判というほかない原判決にストレートに繫がった。警察・検察・裁判所による捜査・起訴・裁判の各過程で,証拠構造の欠陥が明白に認められていたにもかかわらず,誤判防止機能はまったく機能せず,一審死刑判決が下された。

控訴審における事実の取調べの結果,女性被害者がS病院に通院した最後の日が事件の4日前の6月16日であることが判明したことによって,女性被害者は外出していないことがより明白になったこと,さらにそれに加えてDNA型鑑定によって男性被害者が攻撃されたとき,実はすでに女性被害者も攻撃を受け出血していたことが明らかにされたことによって,検察官が立証しようとした「男性が殺害された後,外出先から事務所に戻ってきた女性が殺害された」という構図は完全に崩壊した。さらに,主任取調官Y,F電気の社員M,スナック「R」の経営者K,及び「R」の従業員Iの娘の証言によって,被告人は午前10時45分頃,Iに電話を架けていることが判明し,被告人には,犯行時間帯と考えられる午前10時35分から同50分までの時間帯についてはアリバイが存在することが明らかとなった。

本件各証拠を総合評価すると,実は女性被害者は外出しておらず,男性被害者が銀行から事務所に戻った後,2人が事務所に一緒にいるところを襲われて殺害された可能性が非常に濃厚であるが,市道にガラス戸一枚で面している事務所内で犯行が行われ,しかも被害者両名が倒れていた座敷内は什器備品が所狭しと置かれているにもかかわらずまったく荒らされた形跡がないことから,到底単独犯による犯行とは考えられず,したがってこの点からも共犯の考えられない被告人の犯人性は否定されることになる。

そして,現場状況とよく符合する複数犯による犯行が無理なく描くことができ,かつ共犯関係を組むことのできる容疑者と目される人物が他に具体的に存在し,少なくともその中の2人は捜査段階で重要参考人として登場していた。しかし,捜査機関は,それにもかかわらず,短兵急に被告人を犯人と決め付け,他の容疑者の捜査をなおざりにしてしまった。

ここに,弁護人はゆるぎない自信を持って,原判決は破棄を免れず,被告人は,強盗殺人の罪については無罪であることを確信をもって主張するものである。

 


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