鶴見事件第20回公判のご報告02,3,7

 

支援者の皆様へ            弁護人  大河内秀明

 

いよいよ大詰めに近づいておりますので,できるだけ正確に現在の審理状況をお伝えしたいという一念から,少し長くなりましたが,皆様の熱意にお応えしようと思い,詳しいご報告をさせていただくことにしました。



3月4日の第20回公判では,被告人質問,検証,証拠の採否の決定が行われました。

結論を先に申し上げますと,弁護団は,この日の公判は大成功であったと思っています。無罪のゴールがはっきりと見えてきたといっても過言ではないと思います。去年の暮れには,裁判所は3月4日で審理を終える予定でいました。しかしいまは,裁判長は,弁護側からの立証の必要性を認めています。次回(3月27日午後1時30分)には,弁護側が請求していた重要証人の尋問が実施されます。

さて,第20回公判の経過をご報告します。

 まず,被告人質問は無難に終わりました。今回は,裁判所は質問せず,弁護人と検察官の質問だけが行われました。裁判所は,すべての審理を終えた後,最後に被告人に質問することになっています。

次に,弁護側の請求によって実施された検証では,被害者男性のシャツの右肩付近に付いた擦過血痕は,外から付着したものと認められ,検証は,弁護側の狙いどおりの結果となりました。

 さらに,証拠決定では,弁護側が取調を請求している証拠の多くが採用されました。このことは,裁判所が,被告人の弁明に注目し始めたことをはっきり示しており,無罪の方向で証拠調をする姿勢を明確にしたといえます。

 なお,裁判所は,検察官による的場阪大教授の証人請求の採否決定を留保し,検察官にさらにその必要性を述べるよう求めました。

 この日の公判における裁判長の訴訟指揮は,公正なものであったと評価できます。それは,裁判所の見方が去年の暮れまでとは大きく変わり,被告人の犯人性に疑問を持つようになり,無罪判決を念頭に置いた見方に大転換したことをはっきり示すものといえます。

ここで,これまでの審理の経過を総括したいと思います。

 検察官の殺害順序の主張は,「男性→女性」,つまり銀行から帰った男性が先に殺害され,その後外出先から戻った女性が殺害されたというものです。

しかし,女性は外出した形跡がありません。これだけでも検察官の主張に大きな疑問が生じます。ところが,今回の検証によって,さらに検察官の主張が成り立たないことが明らかになりました。それは,男性のシャツに付着した擦過血痕は内側から付いたものではなく外側から付けられたものであることが判明したからです。裁判長は,そのことをはっきりと認めました。この擦過血痕には女性の血液が混じっていることがすでに分かっていますので,それが外から付けられたということは,男性を殴打したとき,すでに凶器には女性の傷口から出血した血液が付いていたことになります。ということは,検察官の主張を完全に否定することになります。

次に,女性に午前10時25分頃電話したという人物がいます。その人物の証言を前提にする限り,その5分後くらいに男性は銀行から戻ってきていますから,その間に女性を殺害するということは,時間的にみてありえません(現場の状況から,女性を殺害するのに少なくとも5分は必要であることについて,争いはありません)。

 よって,残る可能性はただ1つ,それは,男性が銀行から戻り,女性と一緒にいるところを襲われ,2人同時に殺害されたということです。 

 現場の状況からみて単独犯が鈍器を用いて2人を同時に殺害することが考えられないことは,捜査当局にとっては初めから自明のことでした。それは,捜査当局ならずとも,誰が考えても動かしがたいことでした。事務所は,ガラス戸1枚隔てて道路に面しており,外からガラス越しに中が見える状態になっていますが,2人が頭を突き合わせるようにして倒れていた6畳間は,什器備品が所狭しと置かれ,空間は狭くなっているにもかかわらず,室内は整然としていて,争った形跡が全くないからです。

 このようにして,現時点における審理の結果を総合すると,無罪の判決しかありえないということになります。

 今後の審理の予定について申し上げると,検察官が請求している的場証人の採否の問題があります。弁護人は的場証人の採用に強く反対していますが,それはあまりにも検察官に便宜を図ることになるからであって,仮に的場証人が採用されたとしても,無罪判決を指向している現在の裁判の流れを変えることはできないものと思っています。

 

以上のとおりであり,無罪判決獲得を富士山登頂に例えれば,今,8合目から9合目辺りのまさに胸突き八丁に差し掛かったところといえると思います。弁護団はもとより最後の力を振り絞って頂上を目指し手がんばりますので,支援の方々にも一層の援護をお願いしたいと思います。

   

          


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